カテゴリー「日記・コラム・つぶやき」の9件の記事

2015年10月24日 (土)

ジャンボヨーグルトパフェ

ある日の夜、ファミリーレストラン入り席につくと、ほぼ同時くらいのタイミングで通路を挟んで反対側に座っていた男女2人のうち、歳の頃30半ばくらいの男が激昂して女性の店員をどなりつけた。

「てめえ、ざけんじゃねえよ、いつまで待たせんだよこの野郎!」

客のまばらな店内で耳をつんざくような怒声。関係ない私ですら驚いて開いたメニューの影に顔を隠したくらいだから、 対面の女性店員の恐怖はいかばかりであろうか。顔を紅潮させ、「申し訳ございません」とひたすら頭を下げている。男の怒りはおさまらない。

「おめえじゃ話にならねえんだよ、店長呼んでこいよ」

小走りで女性店員は奥へさがると、入れ替わるように店長がこちらへやってきた。5m先から車海老のように腰を曲げてにじりよって来る。

「お客様、このたびは誠に申し訳ございません、ただいま急いでお作りしておりますので...」

「なに考えてんだよ馬鹿にしやがっててめえ」

怒りと憎悪がとぐろを巻いている。注文したはずの品がいつまでたっても出来上がってこなかったのだろうとは容易に想像できる。それにしても男の怒りは激しい。

ようやく店長が品を届け、さらに深々と頭を下げる。

「大変申し訳ございませんでした、あの、料金は結構ですので...」

「あたりめえだろうがよ、バカヤロー」

男はなおも怒り収まらずといった表情で注文の品をぱくつきはじめた。

通常であればここらあたりでなんだよ人騒がせな、と自らの食事に集中するところではあるがその時にいたっては私は彼を二度見しないわけにはいかなかった。

男が怒りながら食べていたのが「ジャンボヨーグルトパフェ」だったからだ。

あまずっぱいヨーグルトとあんずなどのフルーツ、アイスクリームがふんだんに盛りつけられたボリューム満点のパフェである。ブルーベリージャムが鮮やかな彩りを添えてかわいい。あまずっぱさを想像するとリンパの前あたりがキュッとしまる。

いや、わかんないですよ、始めから顛末を見ていなかったので。
ひょっとしたら激怒に足る充分な理由があったのかもしれない。すごくぞんざいな態度で「ようこそいらっしゃいませ、お前みたいなやつが」とか「今お作りしてます。後のお客様を優先的に」とか言われたのかもしれない。

ただ、たとえそうだとしても、あまずっぱくてかわいいヨーグルトパフェを目にして、かかげた怒りの拳を振り下ろす事ができるだろうか。

血のしたたるステーキや肉汁がどばどばあふれる、生存に必ず必要なオードブルが来ないというならともかく、あまくてかわいい、つやつやしたあんずやサクランボやアイスクリームやヨーグルトが肩を組んでにっこりと微笑んでかわいい、余剰エネルギーのメタファーたるヨーグルトパフェである。

しかしうまく言えない。私はこの感覚を彼に伝える言葉を持たないのだ。
「あの、もういいんじゃないですか、ジャンボヨーグルトパフェですよ。かわいいし、メタファーですよ」と言ってもはなはだ説得力に欠け、むしろ「うっせえ、じゃあお前を殴る」という事態になるに違いない、それは困る。

相変わらず不機嫌そうにヨーグルトパフェを口に運ぶ男性の口びるはクリームでほんのり白くそまっていた。

それを眺めているうちに胃の底から這い上がって気管支をぬんぬらと刺激するこの感情を顕在化させることが文学なのかもしれないと思った。

 

2014年7月 9日 (水)

スライディング

電車の中で前に座っていた白髪頭にメガネの実直そうな男性がカバンから書類の束を取り出して膝の上に置くと、赤ペンで何やら記入しはじめた。

書類には担当営業によって商談件数、見積り依頼獲得数、受注数、商談の感触や展望、日常業務をこなすうえでの悩みなどが書かれていた。彼は恐らくリフォームか何を扱う会社の管理職と思われ、部下達から提出された営業週報にコメントを書きこんでいたのだった。

報告書に書かれる若手営業マンの焦燥。
「先週より商談が進展しない。信頼されていないのではないか。」

それに対してのコメント。
「私はあなたを信頼してお客様に紹介しています。まずは自分を信頼する事からです。来週から自信を持っていきましょう」

男性はスムーズに誠実なコメントを記入し、次に目を通す。電車の「ガタン、ガタン」という走行音と彼がテンポよく紙をめくり、ペンを走らせる音がシンクロして心地よいリズムを作りだしていた。

そんな調子で何枚か進むと、きわめて淡白な吉田君(仮名)の報告書があらわれた。
受注はおろか見積もり依頼獲得件数、商談数もゼロ。乱暴に書きなぐられたゼロ。結果がでないというより、戦場を放棄しているとしか思えない。
魂のない週報を見下ろして男性の動きが少し止まった。空調の効いていない車内で紙の束が少し揺れたように見えた。そして彼は赤ペンでコメントを記入した。

「吉田君(仮名)、先週に続き商談も見積り獲得もゼロとは寂しい限りです。社内ソフトボール大会の時のスライディングのようなガッツを見せてください」

スライディング。

覇気のない勤務態度の吉田君(仮名)が見せた勝利への執着。
ガッツあふれるスライディング。どんなスライディングじゃい。

灼熱の日差しを浴びながら繰り広げられている営業2課との決戦、1-0でリードされた最終回の攻撃。2アウトから絶妙なプッシュバントで出塁した吉田君はエラーでセカンドまで進む。

2課の抑えの切り札、キューバ支社からの出向社員キンテーロが下手投げで渾身の一球を投げ込むと、営業3課の稼ぎ頭、田所君は狙いすましてジャストミート。ヒット性の当たりはショートの頭上を越え、ライト前でワンバウンド。吉田君は三塁に向かって渾身の力走を見せる。事務の勅使河原さんの黄色い声援が背中を押し、力学的にありえないフォームで走る彼の加速を手伝う。

ライトはワンバウンドの球の処理をいささかあやまりお手玉。それを見た三塁コーチの西田主任は右腕を高速回転させる。これは息も絶え絶えに疾走する吉田君へののミッションを告げるサインだ。
「回れ、ホームベースにつっこめ」

「ふぁえっぱ」

声にならない叫びを挙げながらサードベースを蹴る。全く減速しなかったので遠心力で外に大きくふくらみベンチに激突しそうになるもなんとか持ちこたえ、半分横走りのようなフォームで強引に軌道を修正しながらホームベースに突っ込む。しかしボールは打ったコースをそのまま引き返すようにショートを中継して矢のような勢いでホームに返球されてきた。

普通に走り抜けたのでは間に合わない。すなわちそれは試合に敗れ、お茶にオフィス裏の沼の水を使われたりする屈辱の日々が続くことを意味する。

危機を感じた吉田君は道半ばで崩れ落ちるようにヘッドスライディングすると口を大きく開き、「妙妙妙々々々...」と殺生石のような毒気を放ちながら大きく息を吸い込んだ。

するとホームベースはキャッチャーの足元を離れ、みるみる内に吉田くんの口元に吸い寄せられる。両手で抱え込むようにしてホームベースを確保し、その場にうずくまる吉田君。執念が生んだ、人類が見た事もないスライディングの誕生であった。パチ、パチ、パチ、パラパラと拍手の音が聞こえはじめると、ほどなくそれは敵味方分け隔てなく彼のガッツを讃える大喝采へと変わった。判定は非紳士的行為でアウトだった。

みたいな事を帰り道すがら考えていたが「ちょっとガッツあふれるとかいう感じじゃないな」と思った。吉田君(仮名)、とりあえず営業もっとがんばれ。

2014年6月 2日 (月)

カマクラ

2月に関東甲信越を襲った記録的な豪雪はしばらくの間、街の各所に爪痕を残していた。
懸命な雪かきによって道路脇に高く積まれた雪の山や家の前に作られた雪だるま、凍結する歩道。

そんな自然災害の記憶を尻目に、街は日常の活況を取り戻しており、仕事を終えて深夜にさしかかった駅前の通りを駐輪場に向かって歩くと「いかがっすか」「キャバクラいかがっすか」「おっぱいどうですか」と腹を減らした回遊魚がオキアミに食らいつくかのようにポン引き達が行く手に集合してくる。

私のようなしょぼくれた人見知りのおっさんが「見知らぬ女性と乾きものを食べながら酒を飲み、世相や自分について語り合ってお金を消費しませんか」なんて勧誘されてもそんなもん1ミリたりとも心が動かないのであって、「キャバクラどうですかキャバクラ」と進路を塞ごうとする黒服をいつものようにかわそうとしたのだが、その日はキャバクラと連呼する男のすぐ背後にあるものを見つけてしまったのだ。


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キャバクラ男の背後にカマクラ。

「これだ!」

このカマクラは店から離れた所にいる呼び込みのそばにあったもので、恐らくはキャバクラの従業員によって作られたものではない。
しかしこの、崩落しかけ、短い生涯を終えようとしている老カマクラはその穴から私の脳波にメッセージを伝送し、次の行動を促すのであった。

キャバクラのカマクラを探すべし。


いざ、キャバクラのカマクラ。

駄洒落のために命をかける御家人と化した私は空腹も忘れて歓楽街へと飛び込み、歩き回った。


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路地という路地で、道路脇につまれた雪塊を確認する。

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おにいさんいかがですか、だんなキャバクラいかがですか。なにうろうろしてるんですか。
とハンティングの嵐をくぐりぬけながらさまよう事約30分。

歓楽街で一番神々しく輝くキャバクラ看板の向こうに巨大かつ精巧なスノーアーキテクト。
今、ここにキャバクラとカマクラが文明史の中で接続されたのである。

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ラスコー洞窟で壁画でも発見したような、過剰に何かを成し遂げた気持ちを抱き、富士そばで天玉そばをすすった。次の雪のよるには鎌倉に行こう。



2014年1月16日 (木)

ダブルジッパー

2014年初頭、新春クリアランスセールで埋め尽くされた、晴天とはいえ真冬の極寒の往来を半袖Tシャツ1枚姿の外人が微笑を浮かべて悠然と闊歩していた。それを見たアパレルショップの店員達が「アウター50%オフですよー」と声を張り上げるが、そもそも別に寒いと思ってないから半袖でぶらぶらしているわけであって、そんなアピールには目もくれずにケバブを買いに行ってしまった。


そんな日に私はクリアランスの波に乗りコートを購入した。試着した際に前を閉めようとジッパーに手を伸ばすとダブルジッパー。
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金具が上下向きに2個付いて、下側からも開けられるという利器なのだが、ぶきっちょな私はこれがなかなか閉められない。2つの金具の溝をまっすぐ保ちつつ、そこに相手側を正確に精密に貫き通さねばならないのだ。

案の定、うまいこといかない。1個目の金具を通過して一個目半くらいの所でなんかガッと引っかかって、強引に下ろそうとすると、その力で今までおっかなびっくり保たれていた金具の並びがクニャンと曲がってしまい、そこから下ろすどころか、やり直そうと外すことすらままならず進退極まって泣きそうになった時、アパレルスタッフからの優しい声が聞こえてきた。

「これ、コツがあるんすよ」

「左手で上のほうの金具を持って下向きに少し力を入れておさえながら相手側を優しく入れてください」

「で、力を入れないで、手の力で下ろすというよりはジッパーをつけるために下を向いて曲がっていた背筋を伸ばしてそれによって服がピンと張っていくのと連動させるようにしてスッと下ろします。カチッというまで下ろしてください」

と、指示に任せるままにジッパーをつけると何たる事か、今までバルセロナの殺人牛のごとく暴れていたダブルジッパーがまるで従順な家畜のように思いのままにするっとはまりノーストレスで閉める事ができるではないか。

「なんていうんですかね。今、僕がこうしてアパレルショップで接客業をしている世界と別にパラレルに存在する世界があって、でもそれぞれの世界は僕が知覚する意識の中でしか存在しない。やっぱり僕は僕でしかない。そういう構造を頭に入れて、この2つの世界を僕という自意識で串刺しにするんだ。そんな感じでやると上手くできるようになると思いますよ」


このダブルジッパーマスターの高説を聞いた私はいても立ってもいられなくなり、コートを購入すると家路を急いだ。


家に着き取り出したのは10年程前に買ったコート。これもダブルジッパーだった。買ってから1週間程でジッパーがどうやっても閉まらなくなり、いくら私でもここまで閉まらないのはおかしい。不良品をつかまされた。ボタンもついているので閉まる事は閉まるが、このコートがもつ本来の防寒性能は半減、なんなんだ。ふざけるな。何が「うちの服はネットだと仙台でしか買えないんすよ〜」だ。ネットだから仙台でも買えるんだろうが。軒先にオオワシが巣を作ってしまえとショップを呪ったものだった。まあ、なんだかんだ10年使っているのだけれど。

そんなコートのダブルジッパーを手に取り、深呼吸をし、まだ体に残っているその感覚で
「世界を、串刺しに...」



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「はまった!」10年間閉まらずだったジッパーは何事もなかったように車両基地に向かう機関車トーマスかっていうぐらいの軽快さで滑り、左右の布を連結させながら白銀の足跡を残してゆくのだった。

御社のコート、良品でした。異様に私のジッパースキルが低いだけでした。オオワシとか
思って本当にすいませんでした。

10年間のわだかまりが解けたダブルジッパーを眺めながら、古い友人に会いたいと思った。

2013年7月23日 (火)

ベルジュバンスお伊勢

家の近所の街道沿いに美容室が建っている。

パラソルを展開したようなかまぼこカッティングのくすんだ赤の
装飾テントに、「ジュバン」あたりがなんとなく格調高いベル・ジュバンスの
称号が映える味わい深い店構えが私の心をとらえていた。

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ある日、この店に工事が入り、この装飾テントも取り払われていた。
ああ、改装か、テカテカの黒い内照式のモードな看板にシュッと
筆記体でEmmyとかそういう洗練されたモードな感じになるんだろうなあ。
時代だもんね、致し方なしと酢ダコさん太郎を噛み締める日々を送って
いたのだが、リニューアルされた姿を目撃した時に私の憂いは十万億土の
彼方に飛んでいった。


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まったくおんなじ!場所こそ変わっていないがこれはもう遷宮ではないか。
時を越え、魂と様式と技術、そしてベルジュバンス(言いたいだけ)は継承されてゆく。
なんという伊勢神宮っぷりよ。

行くのなら、このような格式と仁愛と、もっと言うと花に満ちた街道を
私は行きたい。

2012年1月 7日 (土)

雑学チップス

※2006年6月27日のmixi日記からこちらに改訂、転載したものです。ので、掲載している商品はおそらく、もう入手不可能です。
 

薪を背負いながら本を読みふける二宮尊徳
労働の時間を惜しみ知への欲求をひたむきに追求するその姿は
我らが日本人の誇る勤勉さの象徴として知られている。

そんなくらいに勤勉な尊徳さんの事だから、飯食う時だって学術書片手に
って感じだろうなあ、ってそうは問屋が下ろさない。

農耕民族たる我々は、八百の神がもたらす大地の豊穣に感謝の意を表し、
神妙に食事を頂く民族性も同時に持ち合わせておるわけで
「尊徳、あほ!飯食うときに活版印刷なんてながめるでねえ、罰あたるぞ」
なんて家長に戒めを食らっていたに違いない。(全部空想です)

尊徳無念、知識欲ピンチ、勤勉あやうし。

しかし、そんな勤勉さを尊徳から脈々と受け継いだ我が民族は
「食べながら学ぶ事」の正当かつ合理的な解決を試みたのである。

それがクラッカーを食しながら生物の形状、名称、表記を記憶中枢にインプットするのに成功したギンビズの「食べっこどうぶつ」であったり、寿司屋のあがりが注がれる魚の名がいっぱい書いてある湯のみだったり、空想科学の世界ではどらえもんに出てくる食物型外部記憶装置「暗記パン」だったりする。

で、2006年の夏、W杯もたけなわの頃、そうした知育菓子の決定版がコンビニエンスストアーに颯爽とその姿を表したのである。

その名も

「Pringles(プリングルス)プリントチップス 雑学入り」(うす塩味)

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舶来ポテイトチップスの名品、プリングルスと「雑学」のコラボレート!
こんな途方もない組み合わせをいったい誰が考案しえたのだろうか?

色相学でいう所の「アクティブさ」「大胆さ」を象徴するカーマインレッドを基調としたパッケージには、「チップの上に雑学がプリント」という、わかりやすく企画内容を表現している
はずなのに、なぜだかわけがわからないコピー。

商品写真にはチップにプリントされた雑学の一例が

「馬は口から呼吸ができないので鼻息が荒い」

へぇーとうなりながらも、この文字と写真を合成したデザイナーの気持ちは
如何ばかりであったろうかとおもんばかる。

んじゃ早速食ってみっか。

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「満タンクを訳したのが満タン」
へぇー パリパリ

「世界で最初の動物園が出来たのは中国」
へぇー パリポリパリ

「日本人の14%が左利き(言い切んなよ)」
へぇー パリパリパリ

だ・か・ら・な・ん・な・ん・だ

チップスをピックアップする度に、なんの解説もなく、ただ結論だけを
ぴしゃりと押し付けられる、むしろ潔い。

我々の中には、
必要な知識は文学で学んだという人がいる。いや、漫画で、専門書で
学びましたという人がいる。

それと同じ感覚で、教養はポテトチップスで身につけましたというチップス・インテリジェンス
世代が社会を担う未来が、もうそこまで来ているに違いない。(注意:嘘)

2011年5月 7日 (土)

ゴイサギ VS UMA

※mixiのエントリを改訂、転載

外に出れば陽光は麗か、ウメの花ははや散り始め、サクラの蕾はそれに
取って代わらんとばかりに膨張し、開花を待つばかり。

そんな立春の石神井公園のアイドルは相も変わらず三宝寺池の水辺観察園に住み着いてコバルトブルーとオレンジのコントラストをきらめかせながら食餌の為のダイブを来園者にご披露する「水辺の宝石」ことカワセミである。

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朝も早くからカワセミが出現するポイントの此岸には、三脚に支えられた天体望遠鏡さながらの超巨大望遠レンズを装着したキャメラがずらりと並び、 止まり木から澄ました顔で水面を見つめているカワセミがダイブする様を逃すまいとファインダーを覗き込む日曜キャメラマンの背中を見つめながらとくとくと 歩くと左手には三宝寺池がカワセミ回りのそれとは対照的な静けさを持って姿を表す。

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向こう岸にはカラスとペンギンの合の子のような鳥が誰にも注目されずにボーと朴念仁のように突っ立っている。

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※写真は井の頭公園で撮ったもんです。




ゴイサギである。漢字で書くと五位鷺

サギというくらいだから当然サギの仲間、 平安時代に醍醐天皇が神泉苑に遊んだ時の事
こやつがパタパタと飛び回りうっとおしかったので廷臣が「勅なれば畏まれ」と
叫ぶと天皇の下に舞い降りてパタリと羽根を閉じ、シャンと畏まった。
この行動を喜んだ天皇が従五位の位階を授けた事からこの名が付いたという伝承がある。

とってもノーブルな鷺、それがゴイサギなんである。

基本夜行性で薄暗くなるとクワッと嘶きながら飛び立ち、水辺で昆虫並びに小魚等をついばみ食す。つまり我々が活動し、カワセミのダイブを見ては シャッターをパシャパシャ、カルガモに餌を撒いてはやいのやいのしながら鳥類を愛玩している昼間は何してるかというと遠くむこう岸でボーっと身じろぎもせ ず突っ立って睡眠もしくは休息を取っており、観察する側としてはこれっぽっちも面白みがない。

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少しくすんだブルーとライトグレーのコントラスト、後頭からシュラッと伸びる一筋の冠羽がさすがは従五位たる高貴な装いでプロポーション的にはかっちょいい部類に入るとは思うのだけれど 徹夜明けの受験生のごとく眼を真っ赤に充血させて水面を虚ろに見つめ、いまにも世をはかなんで入水しそうなダークネスな雰囲気はカワセミやカモ達と比べるとやはりキュートさがずば抜けて足らんわけで

「うわーカワセミキレーかわいー」とか「うわーカモが餌ついばみに来てかわいー」とか
はあっても

「やーゴイサギが目ぇー真っ赤でボーッとしてるーかーわいーーーーー」

なんて黄色い声援は起こるべくもなく散策する人々には景観のひとつとして認識され、特に脚光を浴びるでもなく三宝寺池の彼岸に立ち尽くしているんである。

まあそんな感じであるゴイサギであるが小生はそういった夜シフトの世捨て人的なたたづまいも嫌いじゃないどころか世界人類を二つに分けて、どっちに属するか っていえばゴイサギびいきの方に入るわけで、暖かい陽光を浴びながら突っ立っている ゴイサギの姿でもどれ撮影したるかいなとキャメラをかまえて その姿をとらえたその時

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あんだけ微動だにしなかったゴイサギがなにやら体躯をかがめ、水中をもぞもぞとついばんでおられる。

なんや昼間でも食欲あるねー小魚でも発見したんであろうかと目をこらすと
なにかを釣り上げたかのように水中から「それ」を口箸にホールドして持ち上げた。
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ぶわっと



ながっ!
うなぎだろうかアナゴだろうかでもまさかそんなもんが三宝寺池にいる訳も無し
冬眠から覚めたシマヘビかアオダイショウであろうか。しかしそれにしても長いなあ

一体なんであろう。

草花はあふれ、緑が萌える悠久の自然の息吹、生命力に溢れたこの石神井公園も
所詮は東京都。

少しく足を伸ばせば冷たいコンクリートのビルが立ち並び、空を焦がさんばかりに
ネオンが照りつける巨大都市、その中には幾百、幾千の欲望に満ちた謀略が張り巡らされ、脳漿をくだき、生命を失うものも同じ数、その中で我らの耳目に触れるものはわずかばかりという 魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)する地獄の吹きだまり。

それが東京。

よくよく考えればマッドサイエンティストの悪巧みによって三宝寺池に人知れずUMA(未確認生物)が解き放たれていてもなんら不思議ではない。

そして息を殺して水底にひたすら潜み、養分を蓄えグエムル(漢江の怪物)もびっくりの大きさに育って、いつの日か魔都東京をヒトのみにするに違いない。

そんな身も毛もよだつモンスターの幼体が、さあ春の陽光を浴びて一段とその体躯を巨大化させるぜこのヤローと水面近くに浮上した所をゴイサギ様に拿捕され、悪魔の企みが明るみにさらされたのであった.....


なんて妄想をしながら様子を見ていると
ゴイサギの口箸にしっかとくわえられたUMA(未確認生物)は首に絡み付いたりくにゃんくにゃん身体をうねらしたりと必至の抵抗を試みるがゴイサギもなかなかの強者、決してその力をゆるめず しっかと加えたまんまではあるのだが
血走った目はどこかうつろで所在なげ。獲物来れりとばかりに捕らえてはみたものの

「すいません、なんかUMA(未確認生物)捕まえちゃったんですけど どうすればいいですかね」みたいな感じで
獲物をだらしなく加えたままおろおろと右に左に駆け出す案配。


おたおた
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「何ゴミですかUMAって」
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少し奥にはそんなてんぱったゴイサギを見て見ぬ振りのアオサギ。
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近代化によるコミュニケーションの欠如、

そしてそれが生み出す現代社会の病理はここにも現れていて再度認識。
咲きほこる花達、さえずる鳥達、中空に遊ぶ虫達、それでもここは東京、
うねるUMA、とぐろを巻く悪意。

で、どうしましょう。とりあえずこいつ弱らせますねと思ったのかどうだかうねうねするUMA(未確認生物)を がんがん地面に叩き付け、またもぼーぜんと考えたあげく

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飲み込みました。



で、いつものボーとした構えに修正
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かくしてUMA(未確認生物)はその発育の中途において謀らずも市井の一ゴイサギに飲み込まれ、マッドサイエンティストの野望は挫折、東京の平和は保たれ、人々がカワセミ撮影や鯉のえさやりに癒される春の日常は続くのであった。

よくやったゴイサギ、俺は見てたぞ。

という妄想も楽しいので石神井公園散策の際はカワセミやカルガモ、
カイツブリ等のスター級だけではなく
ゴイサギとかにも注目する事をおすすめします。

UMAは多分ヘビかと、しかし災難ですねヘビも、うはーい春だぜってでかけた瞬間ゴイサギにぺろりだもんね。



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2010年10月 7日 (木)

削る案配

奥歯を損壊し、約15年ぶりに歯医者に通院している。
こんだけ時を経るとやはりテクノロジーの進化というものを切に実感するわけで、
麻酔なんかもう壊死したんじゃないかっていうくらいがんがん効くし
治療の際に伴う痛みだとかが昔に比べて随分緩和されたなあ。
素晴らしい事だ、医療技術万歳とか思うわけです。

それだけ目に見えて歯科医療の進歩を実感するにも関わらず
なぜか昔と寸分の違いもなく脳神経に突き刺さるように響き渡るあの
「削るやつ」の「キュィーン」。

あのキュイーンの破壊力、不快感だけはむしろ風情としてあえて伝承してるんじゃないかと
思う程にそのまんまだった。恐ろしい事です。

私を担当する歯科医はわりと若く、きびきびとした動きと快活な受け答えで
歯の治療を進行する。患者への気遣いも細かく、とても好感が持てていい感じ
なのだけれど
その勢いをそのままそこに伝えたかのような鋭い「キュイーン」だけはどうにも
いただけない。

その日もいつものように拘束椅子にくくりつけられた私の口腔、そして脳神経を
むしりえぐるかのように無機質で金属的なキュイーンが鳴り響いた。

と、その時、その「キュイーン」に呼応するかのように、モーター音ではあるがもっと
やさしい、暖かみのある、「シュウイーン」という音が、先の「キュイーン」をおいかけ、
包み込み、その場の緊張感に一抹の安らぎ、そして調和を与えたのでした。

「シュウイーン」の方を見ると、隣の席でここの歯科医の院長であろうか、
ペパーミントグリーンの医療帽からロマンスグレーのもみあげを除かせた
眼光やさしき初老の紳士が患者の口腔内の治療に取りかかっており、
その手に握られた「削るやつ」から「シュウイーン」は発せられたのであった。

職人の魂は道具に宿る。

二人の使う「削るやつ」は明らかに同様の機能のものであるのに
そこから発せられるキュイーンはまったく異質の物であり
若手医師のいかにも「削る」といった感じのストレートで攻撃的なキュイーンに比べ
初老医師のは扱う彼自身が道具はおろか、そこに漂う空気と一体化したかのような優しい、撫でるような、そして老練さ、渋みを内包した、いい意味で枯れた「シュウイーン」。

物理的に歯を削り、効率よく治療を進行させようとする若手医者のキュイーンに対し、
共鳴し、そして導くように初老の医師は「シュウイーン」を鳴らす。

そこに会話はない。しかし言葉よりも雄弁に、「シュウイーン」は「キュイーン」を導く。

「キュイーーン」

「シュウイーン」(削ろうとするな)

「キュイーーン」

「シュウイ、シュウイーーーーン」(考えるのではなく、感じるのだ)



「シュウイーーーーーーン」

(わが、削るやつは、大地とひとつ)


若手医者の表情は治療開始時のそれよりも柔和となり
いくぶんシュウイーンに近づいた削るやつを名残惜しそうにホルスターにおさめると
私にゆすぎを促し、席を立った。振り向かずに歩いてゆくその後ろ姿を初老の「シュウィーン医師は一瞥すると、何もなかったように自分の患者のカウンセリングを始めた。

こうして歯医者の道具「けずるやつ」に生命を伝える儀式は日々の治療の姿を借りた
様式の中で師と弟子の魂と肉体の対話によって取り行われてゆく。彼の治療が真の意味で訪れる患者を癒し、憩いを与えるようになる日が来るのもそう遠くはないだろう。




みたいな感じでゆっくりでもいいから、「キュイーン」ってなんとかなっていかないだろうか
と妄念を抱きながらまだ歯医者通いの日々は続くんです。

2010年5月29日 (土)

2010 家の戸棚をあけまして

わーい、ノスリをいい感じで撮影できたぜ。

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オールバックがかっこいい。伊武雅刀的なダンディズム。


やったーモズもいい感じだ。

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かわいい。はやにえ萌え。


おお、さくらそう水門かっこいい。いい水加減ですね。

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てな感じで年の瀬に年賀状も大掃除もほったらかしで 、埼玉は秋が瀬公園で久しぶりに鳥撮影に興じ、ああ、猛禽類とかも はじめてちゃんと写真とかとれてうれしかったなあ。と鳥に馳せる思いを抱いて
帰郷したのが撮影翌日の大晦日。


テレビもねえ、暖房もねえ、吉幾三みたいな実家の部屋で 震えながら新年を迎え、ふと、何年も閉ざされたまま、誰にも気にされていなかった 開かずの戸棚を開いて見ると、

どばん。ここだけ時が止まっていた。

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幼き頃、親に買い与えられた図鑑群達の一部が家の片隅の戸棚で息を殺しながら集団越冬しておったのである。右端の「かちく」てのもなんか気になる。


国際情報社「カラー図鑑」
うっかり発行年とか見てこなかったので どんくらい前のか正式には不明なのだけれど、おそらく幼稚園くらい?では なかろうか。

鳥つながりで5巻、「とり」をセレクト。

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とてもビンテージ感に富んだ装丁を開くと、中はアウトサイダーアートの宝庫。すなはち幼児的落書きである。

2010年を迎えるにあたり、うたかたの泡沫のごとく過ぎ去りし幼き頃の無垢な感性をひも解くのもまた一興なり。

さあ、鑑賞スターティング。

表4では鳥類各種のシルエットのトレース。

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一番下のダチョウらへんまでくるとかなり飽きてきてるのが一目瞭然。
昔から詰めが甘かったんだな。


中身のアウトサイダー落書きにおいてコンセプトのごとく一貫しているもの
があって、それは


カモメのなかま
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カワセミのなかま
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シギのなかま
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フクロウのなかま
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一心不乱ともいえるクチバシへの強い執着である。

彼(幼児期のわたし)とクチバシの間に一体何があったのだろうか?
執拗にクチバシのみを切り出し、とにかく描画、描画。

リビドー発達段階(口唇期とか肛門期とかっていうあれ)でいえばクチバシ期とでもいうべき心理状態か?フロイトかユングに聞いてみたいものだ。

こんな行為に没頭している幼児を見たらすぐ止めさせたほうがいい。
こんなんなってしまうから。


ツルのとんがった感じを表現するのはかなり難しかったらしく 苦悩が暴れた線となり
キャンバスを行き交う。

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男児が畏敬の念を抱く鳥類といえばやはり猛禽類(ワシとかタカ)
クチバシ描画にもひときわ気合いが入っている。


ハヤブサにいたってはくちばしのみならず、その飛翔形まで克明に記す。
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しかも頼んでないのに2匹もだ。

コンドルくちばしへの執着はすごい。クチバシへの執着でいえば サイモン&ガーファンクルにも
負けてはいない。
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なかなか納得のいくクチバシが描けなかったものとみえ、
おびただしい書き直しの後。
途中口開けてるのあるし(笑)


カルフォルニアコンドルには謎のコメント
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「かんぜんてきに」

なにが?

カリフォルニアコンドルのくちばしを我がものにしたという達成感のあらわれか?
たしかに先っちょのくいっといってるとこなんかは他のよりうまくいってはいる。


キング オブ 猛禽類いや鳥類であるワシのくちばしにかける情熱は圧巻。

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「ちがう、オオワシのくちばしはこんなんじゃない!」と叫んでいたかどうかは今となっては知るよしもないが、書いてはぐじょぐじょの繰り返し。

力が入るあまりほとんどのくちばしが下あごの方が長い、つまりしゃくれている。

後年、水泳の時にピラニアのまねをして下あごをつきだして泳いでいたらあごの噛み合わせが
上下逆になってしまい、治療に苦しむ事になる、その未来を予見していたかの様だ。

右ページのヘビクイワシに至ってはクチバシを描き直しているうちに
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顔が気に入ったらしい。打ち首された苦悶の表情がよく出ています。

ガッツ星人とベルク・カッツェの合いの子みたいだ。
わかりにくい例えですみません。いちおうのせときます。

ガッツ星人
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ベルク・カッツェ
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燃えさかる星になってしまうヨタカ
なにげに解説文も味がある。鳥のにんじゃともいえるなかまです。
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3回目でいい感じに。最初のはたしかにないな。これは、UMAだ。
右下の恍惚とした鳥もちゃっかり描いてますね。


ホロホロチョウの上部には谷岡ヤスジが。
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アーサーとか叫ばしてみたい。

そしてときおり散見されるオブジェクト
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「ま」を上下につなげたようなの。チャネリングか?

恐らくはウルトラ兄弟の誰がしかが空中にのろしのように描くサインと
呼ばれるものだと思うが詳しい事はよくわからず。詳しい方がいたらご教示ください。

このサインは時折へのへのもへじと行動を共にする事があります。
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ラストはニューロティカのボーカルを思わせるパンク鳥「エトピリカ」に
襲いかかるドリル走行車。

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科学特捜隊の社用車かなんかだろうか?
とにかく目にやる気がない。


という訳でくちばしから鳥の事が好きになったんだなあという
どうでもいいルーツと見つめ合う事から始まった2010年でありました。