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2015年10月24日 (土)

ジャンボヨーグルトパフェ

ある日の夜、ファミリーレストラン入り席につくと、ほぼ同時くらいのタイミングで通路を挟んで反対側に座っていた男女2人のうち、歳の頃30半ばくらいの男が激昂して女性の店員をどなりつけた。

「てめえ、ざけんじゃねえよ、いつまで待たせんだよこの野郎!」

客のまばらな店内で耳をつんざくような怒声。関係ない私ですら驚いて開いたメニューの影に顔を隠したくらいだから、 対面の女性店員の恐怖はいかばかりであろうか。顔を紅潮させ、「申し訳ございません」とひたすら頭を下げている。男の怒りはおさまらない。

「おめえじゃ話にならねえんだよ、店長呼んでこいよ」

小走りで女性店員は奥へさがると、入れ替わるように店長がこちらへやってきた。5m先から車海老のように腰を曲げてにじりよって来る。

「お客様、このたびは誠に申し訳ございません、ただいま急いでお作りしておりますので...」

「なに考えてんだよ馬鹿にしやがっててめえ」

怒りと憎悪がとぐろを巻いている。注文したはずの品がいつまでたっても出来上がってこなかったのだろうとは容易に想像できる。それにしても男の怒りは激しい。

ようやく店長が品を届け、さらに深々と頭を下げる。

「大変申し訳ございませんでした、あの、料金は結構ですので...」

「あたりめえだろうがよ、バカヤロー」

男はなおも怒り収まらずといった表情で注文の品をぱくつきはじめた。

通常であればここらあたりでなんだよ人騒がせな、と自らの食事に集中するところではあるがその時にいたっては私は彼を二度見しないわけにはいかなかった。

男が怒りながら食べていたのが「ジャンボヨーグルトパフェ」だったからだ。

あまずっぱいヨーグルトとあんずなどのフルーツ、アイスクリームがふんだんに盛りつけられたボリューム満点のパフェである。ブルーベリージャムが鮮やかな彩りを添えてかわいい。あまずっぱさを想像するとリンパの前あたりがキュッとしまる。

いや、わかんないですよ、始めから顛末を見ていなかったので。
ひょっとしたら激怒に足る充分な理由があったのかもしれない。すごくぞんざいな態度で「ようこそいらっしゃいませ、お前みたいなやつが」とか「今お作りしてます。後のお客様を優先的に」とか言われたのかもしれない。

ただ、たとえそうだとしても、あまずっぱくてかわいいヨーグルトパフェを目にして、かかげた怒りの拳を振り下ろす事ができるだろうか。

血のしたたるステーキや肉汁がどばどばあふれる、生存に必ず必要なオードブルが来ないというならともかく、あまくてかわいい、つやつやしたあんずやサクランボやアイスクリームやヨーグルトが肩を組んでにっこりと微笑んでかわいい、余剰エネルギーのメタファーたるヨーグルトパフェである。

しかしうまく言えない。私はこの感覚を彼に伝える言葉を持たないのだ。
「あの、もういいんじゃないですか、ジャンボヨーグルトパフェですよ。かわいいし、メタファーですよ」と言ってもはなはだ説得力に欠け、むしろ「うっせえ、じゃあお前を殴る」という事態になるに違いない、それは困る。

相変わらず不機嫌そうにヨーグルトパフェを口に運ぶ男性の口びるはクリームでほんのり白くそまっていた。

それを眺めているうちに胃の底から這い上がって気管支をぬんぬらと刺激するこの感情を顕在化させることが文学なのかもしれないと思った。

 

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