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2014年1月16日 (木)

ダブルジッパー

2014年初頭、新春クリアランスセールで埋め尽くされた、晴天とはいえ真冬の極寒の往来を半袖Tシャツ1枚姿の外人が微笑を浮かべて悠然と闊歩していた。それを見たアパレルショップの店員達が「アウター50%オフですよー」と声を張り上げるが、そもそも別に寒いと思ってないから半袖でぶらぶらしているわけであって、そんなアピールには目もくれずにケバブを買いに行ってしまった。


そんな日に私はクリアランスの波に乗りコートを購入した。試着した際に前を閉めようとジッパーに手を伸ばすとダブルジッパー。
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金具が上下向きに2個付いて、下側からも開けられるという利器なのだが、ぶきっちょな私はこれがなかなか閉められない。2つの金具の溝をまっすぐ保ちつつ、そこに相手側を正確に精密に貫き通さねばならないのだ。

案の定、うまいこといかない。1個目の金具を通過して一個目半くらいの所でなんかガッと引っかかって、強引に下ろそうとすると、その力で今までおっかなびっくり保たれていた金具の並びがクニャンと曲がってしまい、そこから下ろすどころか、やり直そうと外すことすらままならず進退極まって泣きそうになった時、アパレルスタッフからの優しい声が聞こえてきた。

「これ、コツがあるんすよ」

「左手で上のほうの金具を持って下向きに少し力を入れておさえながら相手側を優しく入れてください」

「で、力を入れないで、手の力で下ろすというよりはジッパーをつけるために下を向いて曲がっていた背筋を伸ばしてそれによって服がピンと張っていくのと連動させるようにしてスッと下ろします。カチッというまで下ろしてください」

と、指示に任せるままにジッパーをつけると何たる事か、今までバルセロナの殺人牛のごとく暴れていたダブルジッパーがまるで従順な家畜のように思いのままにするっとはまりノーストレスで閉める事ができるではないか。

「なんていうんですかね。今、僕がこうしてアパレルショップで接客業をしている世界と別にパラレルに存在する世界があって、でもそれぞれの世界は僕が知覚する意識の中でしか存在しない。やっぱり僕は僕でしかない。そういう構造を頭に入れて、この2つの世界を僕という自意識で串刺しにするんだ。そんな感じでやると上手くできるようになると思いますよ」


このダブルジッパーマスターの高説を聞いた私はいても立ってもいられなくなり、コートを購入すると家路を急いだ。


家に着き取り出したのは10年程前に買ったコート。これもダブルジッパーだった。買ってから1週間程でジッパーがどうやっても閉まらなくなり、いくら私でもここまで閉まらないのはおかしい。不良品をつかまされた。ボタンもついているので閉まる事は閉まるが、このコートがもつ本来の防寒性能は半減、なんなんだ。ふざけるな。何が「うちの服はネットだと仙台でしか買えないんすよ〜」だ。ネットだから仙台でも買えるんだろうが。軒先にオオワシが巣を作ってしまえとショップを呪ったものだった。まあ、なんだかんだ10年使っているのだけれど。

そんなコートのダブルジッパーを手に取り、深呼吸をし、まだ体に残っているその感覚で
「世界を、串刺しに...」



Photo



「はまった!」10年間閉まらずだったジッパーは何事もなかったように車両基地に向かう機関車トーマスかっていうぐらいの軽快さで滑り、左右の布を連結させながら白銀の足跡を残してゆくのだった。

御社のコート、良品でした。異様に私のジッパースキルが低いだけでした。オオワシとか
思って本当にすいませんでした。

10年間のわだかまりが解けたダブルジッパーを眺めながら、古い友人に会いたいと思った。

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